私がピアノと出会ったのは3歳のころでした。
母が弟の鯉のぼりをあげているとき、通り掛かった大手ピアノ教室の営業さんに声をかけられたのがきっかけです。無口で無愛想な子供だったようで、お友達を作るという目的で音楽教室に通い始めました。
音楽教室はとても楽しかったです。お友達もたくさんでき、アニメソングやアンサンブルを楽しみ、優しい先生に清潔な教室。レッスン終了後、鬼ごっこやかくれんぼをして遊んだ事は良い思い出です。今も彼女たちとはお付き合いがあります。
上達という面で、大きな転機は 5年生でした。
先生のお誘いできちんとピアノを勉強することになりました。初めてコンクールに挑戦したのもこの頃です。演奏前の風景、隣に座った友達の顔、椅子から見たピアノの映像は今でも鮮明に思い出すことができます。演奏するときはいつもこの光景を思い出します。
そしてもっと上手になりたいと思うようになり、さらにたくさん練習するようになりました。きちんとしたスタートが遅かった分、ただひたすら上手くなりたかったです。楽譜を読み終わってからの音楽を作り上げていく過程がなんと楽しかったことか!
その後、音楽科のある高校へ進学しました。入学してまず言われたこと‥髪を伸ばして素敵にしていなさい。あなたは舞台に立つ人間なのよ!…びっくりしました。田舎の中学校で校則を守ることがすべてだった私にとって衝撃的でした。美術館によく訪れる様アドバイスをいただきました。美しいものに触れた時自分の心がどう感じるか、それを伝える為にはどれだけの技術が必要なのか。音楽を勉強すると言うのはそういうことか、と思いました。
その後キャンパスライフを楽しみ、大学を卒業し、海外に勉強しに行きました。ハンガリー、フランス、右も左も上も下もわからない状態でした。沢山練習し、演奏会を開催しました。毎日演奏会に足を運びました(当時学校ホールの演奏会を学生は無料で聴けたのです)。試験も受けました。ウィーン、ザルツブルク、ローマ、コモ、ベネチア、ミラノ、プラハ、ロンドン、ローテンブルク、ハイデルベルク、フランクフルト‥拙い英語でふらっと旅行に行きました。スリにもあいました。バスの運転手と日本語vsマジャール語で喧嘩しました。ホテルの予約が取れておらず、追い出された事、困った時思いがけず助けてもらった事もあります。ブダペストの下宿にはオバケがいましたよ!楽しい思い出も苦い思い出もありますが、人生無駄な経験はないと思う本当に濃い日々でした。
その後、帰国し優しい夫とかわいい 2人の子供たちを授かりました。
まだまだ子育て中です。子供のピアノの練習やレッスンを通じて、今までの生徒としての 目線だけでなく、親として音楽教育に関わることで新たな価値観が生まれました。特別な才能や飛び抜けた能力があること、そんなことばかりが羨ましかったのですが、それより大事な事に気付かされました。それぞれお顔が違うように、能力もモチベーションも違います。伸びる時期も違います。それぞれが持つ頑張る力を応援したい。何か役に立ちたい。自分で伸びて行ける力を育てたい。それが生きていく力だから。今はそう心から思います。
音楽教室は、音楽を通じて、人を育て、幸せにする場だと思います。
このような素晴らしい場を、より豊かにしていくために貢献できたら幸いです。
ピアノ教室 代表 磯貝直子